トロンボーンの歴史
History of the Trombone
原典:レムコ・デ・ヤーヘル / 日本語訳:品川隆
Originally texted by Remko de Jager/
Translated by Takashi Shinagawa
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初期文明〜古代文明
Early Civilizations - Ancient Cultures
メソポタミアMesopotamia、アッシリアAssyria、バビロンBabylon(紀元前5000〜4000年)
ユーフラテスEuphrates川とチグリスTigris川に挟まれた、現在のイランIranとイラクIraqにあたる土地では、スメリア人Sumerians、バビロン人Babylonians、カッシト人Kassites、アッシリア人Assyrians、そして再びバビロン人(ネブカドネザール王 King Nebukadnezar)、メデ人Medesとペルシャ人Persiansと、住む民族が入れ替わりました。そして紀元前331年、ギリシャがこの地を治めはじめしました。
ラッパ系の楽器の歴史において重要なのは、前出のディドゲリドゥーDidgeridooに似た楽器を作らせた、スメリア王ギルガメッシュGilgameshです。彼が贈り物をしたという黄金のトランペットに関する記録が残っています。
エジプトEgypt
メソポタミア文明と同時期に、紀元前3000〜30年のエジプトEgyptでも文明が栄えました。エジプトでは多くの考古学的貴重品が発掘されており、その中に含まれるトランペットのような管楽器を持つ人々の彫像は、私たちにとって重要です。ツタンカーメンTutanchamonの墓にある2つのラッパ(青銅製と銀製)の発見によって、当時の金属加工技術を垣間見ることができます。これらの楽器は主に軍隊用音楽に用いられていたとみられ、また神々の崇拝(この頃はファラオPharaohが神として信仰されていた)という用途もあったとみられます。
Trumpet from Tutanchamon’s tombIsrael
(B.C.1000 - B.C.0) |
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イスラエルIsrael
絵画や彫刻などの手がかりはあまり多く見つかってはいませんが、今日私たちが知りうることはタルムッドTalmudや聖書などから判明しているものです。
ショファーShofarという楽器(牡羊の角)についてはよく知られており、モーゼスMosesの十戒のお告げのほか、イェリコの壁崩落The falling of the walls of Jerichoの後に人々が町を7周した行進の際に祭司が吹き鳴らすなど、大切なイベントを知らせるために使われてきました。ユダヤJewishの儀式では現在もなおこのショファーは使われ続けています。
もうひとつ、チャゾツラーChazoz'rahという銀製のトランペットもあります。 |
古代ゲルマン人 The Primitive Ancient Germans (紀元前1500〜400年)
古代ゲルマン人の青銅器時代The Bronze Ageからは、珍奇な楽器が発見されています。ルルスLursと呼ばれる楽器が、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、北ドイツ、アイルランドから30〜40個ほど見つかっています。コペンハーゲンの国立美術館National Museum in Copenhagenではそのコレクションを保存しています。発掘されたルルスはいつもペアで見つかっており、S字型をしています。
一対のルルスLurs |
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ケルト民族 The Celts (紀元前900年〜紀元1066年)
ケルト人Celtsたちは、敵を威嚇するという軍事用の目的で楽器を使っていました。彼らの楽器であるカルニクスCarnyxは青銅製で、のちに鉄製になりました。最も後の時代に作られたカルニクスは、トラゴンの頭の形をしたベルがついています。
ケルト人CeltsのカルニクスCarnyx |
ギリシャGreece
古代ギリシャでは、建築や科学や哲学などに比べると、音楽の重要性はそれほど高いものではありませんでした。そんな中でもサウンド、音楽、音階などの数学的学術に関しては甚大な学殖を誇りましたが、ここギリシャでは、音楽を創造する活動は芝居で用いるために行われていました。発見された多くの絵画や彫刻から当時の音楽の様子を垣間見ることができ、(のちのハープのように)掻き鳴らす楽器や(のちのヴァイオリンのように)弾き鳴らす楽器が主だったことがわかります。そしてその頃の管楽器は、男性らしいものと女性らしいものの2つの様式に大別されます。
アウロスAulos |
サルピンクスSalpinx |
アウロスは、女性的でオーボエのようなリード楽器です。
一方、男性的なサルピンクスは、ラッパ型の楽器です。ギリシャのオリンポス山の近くにあるた洞窟の中で、紀元前500年頃のものが見つかっています。これは155センチほどのトランペットで、象牙や骨で作られており、マウスピースとベルが存在します。
ローマ時代Romans
ローマ文化はギリシャ文明のあとに栄えたことで、たくさんの共通点があります。
ローマ時代には4つのタイプの管楽器があり、現在の我々の楽器の前身と呼べるでしょう。これらは主に青銅製でした。ローマ時代では、先住民族エトルリア人Etruscans(南イタリアで紀元前1000年〜紀元後まで栄えた巨大な文化を誇った民族)の楽器を作る技術が伝承されていました。
以下の4つの楽器がローマ人にとって軍事目的で使用されていました。
ローマン・テューバRoman Tuba: ギリシャのサルフィンクスSalphinxに似たラッパ系の楽器で、管長はサルフィンクスのおよそ半分程度でした(この楽器の複製がローマのエトルリア美術館Etruscan Museum, Romeにあります)。
ローマン・テューバRoman Tuba
リトゥースLituus: 上記のテューバとほぼ同じですが、先端部分がカーブしており、円筒形です。
リトゥースLituus
ローマ時代の金属工にとって、金属を曲げることが課題でした。とくに戦場において、まっすぐに長い楽器は扱いづらかったためです。
コルヌCornuはホルンに似た楽器で、高官に情報を伝達する、勝利の行進をする、剣闘士の競技Gladiatorial Gamesの合図など、軍事的な目的で使用されました。この時代には、唇を守るためのマウスピースも作られるようになりました。
ブッチーナBuccinaは軍隊の楽器として、短い信号を発信するために使われました。牡牛の角製のものが見つかっています。
コルヌCornu
ブッチーナBuccina
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