6.35" --- the first CD of ITE - Dedicated to Hironori Suzuki

 インターナショナル・トロンボーン。アンサンブル(ITE)のファーストCDが、2008年7月に行われたITE日本ツアー2008のなかで、世界に先駆けて日本で発表され、大好評を博しています。
このCDは、メンバーの鈴木寛徳が亡くなる前にレコーディングをしており、メンバー全員から厚い信頼とリスペクトを受けていた彼の演奏と生の声が収録されています。
トロンボーン・クワイヤーというヴァリエーション豊かな編成の可能性と広い表現力をもったジャンルのオリジナルとアレンジのレパートリー中から、特に優れた作品を集めてあります。大編成トロンボーン・アンサンブルの数少ない録音として、貴重な一枚になると自負しています。

ITE CD "6.35"

収録曲

1. Canzon XIII (Giovanni Gabrieli)
2. Laudate Dominum (Hans Leo Hassler) / arr. Barie Webb
3. Toccata (Girolamo Frescobaldi) / arr. Vern Kagarice
4. The Perfect Fool (Gustav Holst) / arr. Jay Friedman
5. Provence (Jeremy Dibb)
6. How Lovely is Thy Dwelling Place (Johannes Brahms) / arr. Elwood Williams
7-9. Trombone Octet (Gordon Jacob)
10. Passacaglia (Allen Chase)
11. "6.35" (Steven Verhelst)
12. Posaunenstadt! (Eric Ewazen)
13. Frankie & Johnny (traditional) / arr. Stephen Roberts

1. カンツォン13番(G.ガブリエリ)
2. ラウダーテ・ドミヌム(H.L.ハスラー)
3. トッカータ(G.フレスコバルディ)
4. ザ・パーフェクト・フール(G.ホルスト)
5. プロヴァンス(J.ディッブ)
6. 御身の住まいの美しきことか(J.ブラームス)
7-9. トロンボーン・オクテット(G.ジェイコブ)
10. パッサカリア(A.チェイス)
11. ”シックス・サーティー・ファイヴ”(S.フェルヘルスト)
12. ポザウネンシュタッド!(E.エワイゼン)
13. フランキー&ジョニー(アメリカン・トラディショナル)

収録時間:57:24

[Tenor Trombones]

ミケル・アルカウツ・ツビヤーガ Mikel Arkauz Zubillaga (スペイン)
フレデリック・ベッリ Frederic Belli (ドイツ)
ヴィクトル・ベルモンテ・アルベルト Victor Belmonte Albert (スペイン)
クィライン・ファン・デン・バイラールト Quirijn van den Bijlaard (オランダ)
ペドロ・アレハンドロ・カラレロ・プラツァPedro Alejandro Carralero Plaza (スペイン)
バート・クラエッセンス Bart Claessens (オランダ)
ジャウメ・ガヴィラン・アグヨ Jaume Gavilan Agullo (スペイン)
アンッティ・ヒルヴォネン Antti Hirvonen (フィンランド)
フランク・クラメル Frank Kramer (オランダ)
永井淳一郎 Jun-ichiro Nagai (愛知県碧南市)
エロイ・パニツォ・パドロン Eloy Panizo Padron (スペイン)
イザーク・サナブリア・ヴァニョ Issac Sanabria Vano (スペイン)
マルティン・スキッパース Martin Schippers (オランダ)
品川隆 Takashi Shinagawa (北海道札幌市)
クラース・ファン・スラーヘレン Klaas van Slageren (オランダ)

[Bass Trombones]

コスタス・アレクサンドリス Kostas Alexandris (ギリシャ)
ベン・ファン・ダイク Ben van Dijk (オランダ))
トメル・マシュコフスキー Tomer Maschkowski (オランダ・イスラエル)
ディトマー・ニクシュ Dietmar Nigsch (オーストリア)
ベン・シュルツ Ben Schultz (オーストラリア)
鈴木寛徳 Hironori Suzuki (広島県東広島市)

[Conductors]

ベン・ファン・ダイク Ben van Dijk (オランダ)
ユルゲン・ファン・ライエン Jorgen van Rijen (オランダ)
ピエール・フォルダース Pierre Volders (オランダ)

レコーディング・データ

Producer: International Trombone Ensemble
Support: Codarts(Rotterdam Conservatoire)
Recording Engineer: Aleksandar Obradovic
Digital Editing & Mastering: Martin van den Berg
Artwork & Layout: Diana Beekfelt
Photography: Henrik Soederlund, Barbara Vlot, Diana Beekfelt
Project Managers: Takashi Shinagawa, Martin Schippers
Recording Dates: October 26, 27, 28 & 29, 2006
Recording Location: MCO Studio I, Hilversum, the Netherlands

作品"6.35"について

 収録されている"6.35"という作品は、いわばこのグループの学生時代の思い出が詰まったオリジナル・ピースです。メンバーでバストロンボーン奏者のステーヴン・フェルヘルストSteven Verhelst(ベルギー)は、数多くの金管楽器やトロンボーンのための作曲・編曲を手がけ、その作品の多くが出版され、ITFやSFをはじめ世界の舞台で演奏されています。このグループがロッテルダム音楽院トロンボーン・クワイヤーとして2005年のエモリー・レミントン・トロンボーン・クワイヤー・コンペティションで優勝したあと、音楽院の卒業を控えたメンバーたちの思い出の場所〜毎週水曜日の16時からこのグループの厳しいリハーサルを行ってきた場所であるロッテルダム音楽院の6階にあるMuziekzaal=6.35室と学校内のさまざまなシーンをモティーフにして、彼がこの10分以上にも及ぶ作品を作曲しました。
その後、2006年秋にこの曲をレコーディングしましたが、とても重要な最低音域のパートを担当し、この曲が大好きだった鈴木寛徳が、CDのリリース前に亡くなってしまったことから、メンバーたちにとってはこの曲は彼との思い出の曲となり、このCDを彼に捧げることになりました。

 

"6.35" プログラムノート

 音楽は、ロッテルダムの町のド真ん中にある音楽院の建物に入ってすぐに視界に入ってくる風景から始まります。ロビーにぽつりぽつりと何人かの学生がいて、Reception(受付カウンター)の中に職員が座って退屈そうにしているところです。まだ午後3時くらいなのに、緯度の高いオランダではすでに夕暮れ時で、西向きの校舎に夕陽が差し込んでいる、哀愁のある情景です。【"Entrance"】(=以降同様に、楽曲の部分ごとにタイトルがついています。)

 感傷的な思いがひとしきり巡ってから、現代的なつくりのこの建物の象徴ともいえる、ガラス張りの壁の内側にある超ロング・エスカレーターを上りきったところ、5階のカンティーンに到着。コーヒーマシンがあり、コインを入れて番号を入力し、いつものコーヒーがカップに注がれると、"E-G-C-B"(ミ↑ソ↓ド↑シ)という4つの短い音符からなる信号音が鳴って、出来上がりを知らせてくれます。ふとまわりを見ると隣のマシンでもトロンボーンのアイツがコーヒーを買って同じ音を鳴らし、その様子を後ろから見ていた他のトロンボーンの連中がこぞってその音を真似て歌っているではありませんか。気の置けない仲間たちと顔を合わせハグをする、いつもの楽しい瞬間です。そして、コーヒーマシンの音は仲間たちにどんどん“こだま”して、連中は次第に騒がしくなっていきます。まわりでおとなしく談笑していた学生たちは「またトロンボーンのあいつらか」といった感じで、そのやんちゃな様を眺め、あきれ顔やにやけ顔をしています。騒ぎはどんどんエスカレートして、叫び声をあげてカンティーンの巨大テーブルをたたき鳴らし始めたそのとき、音楽院の学長でありトロンボーンの教授であるGeorgeが、「こんなところで騒いでいるんだったら、さっさと練習へ行け!」と雷を落とします。一時はシュンとしたものの、彼らは口々に適当な言い訳をしてその場を逃れ、平静を装って彼がいなくなるのを見届けるなり、またすぐに陽気に歌いだします。【"5th Floor"】

 誰からともなく「Hey! Look!!」とささやき声が上がり、みんなが視線を集めるその先には、金髪でスタイル抜群の若い女性の姿がありました。休憩時間を終えて、勤務場所である学内図書館(中6階)へと戻っていく、学校内でも指折りの美人であろう、オランダ人女性のライブラリアンです。抑えが利かなくなった仲間の何人かは階段を駆け上がっていって、きれいに整頓された図書館の入り口で、ライブラリアンのお姉さんに愛のメロディを贈るのです。もちろん、先頭にたって歌っているのはTomerです。【"Library"】

 結局なかなか相手にされないこともあって、飽きてきたのでしょう。彼らがしょぼくれて図書館を出てきた頃には、その頭上にある時計の針が午後4時を示そうとしていました。仲間たちは巨大テーブルのところから楽器やかばんを持って、腰を上げ、順々に6階への階段を、一段一段、上っていきます。そして扉を開けると・・・そこは彼らの場所、6.35。こうして、アンサンブルのリハーサルが始まり、窓の下にはトラムが鐘を響かせながら走り、ユーロポルトの向こう側には夕陽が沈んでいくのです。【"6.35"】

("6.35" 楽曲プログラムノート:Steven Verhelst, Takashi Shinagawa)
(日本語訳:品川隆)

サンプルおよび楽譜の入手先はこちら

 

Hiro with his broken trombone & Ben @Recording Session

HIROTTEREAL.COM
鈴木寛徳追悼ページ

The First Copy of CD "6.35" to Mom Junko Suzuki(30 June 2008)

"Project H"
International Trombone Ensemble Japan Tour 2008

“プロジェクトH”
インターナショナル・トロンボーン・アンサンブル 日本ツアー2008